大白法 平成26年9月1日刊(第892号)より転載



 法華経についてJ
 

『化城喩品第七』の後半

 前回は、()()(きょう)(しゃく)(もん)のうち、(しょう)(しゅう)(ぶん)(こう)(かい)(さん)(けん)(いち)における(さん)(しゅう)の説法中、第二の()(せっ)(しゅう)(じゅ)()(だん)に当たる『(じゅ)()(ほん)第六』の()(だい)(しょう)(もん)の授記について述べました。
 続いて、未だ開三顕一の法門を(りょう)()できない()(こん)(しょう)(もん)に対して説かれた(いん)(ねん)(せっ)(しゅう)(しょう)(せつ)(だん)に当たる『()(じょう)()(ほん)第七』の前半部分についても学びました。
 そこでは主に(だい)(つう)(ふっ)(こう)を説かれて、(しゃく)(そん)(ざい)()の弟子は、(はる)か昔の三千(じん)(でん)(ごう)において釈尊から()(しゅ)(けち)(えん)され、今日に至る(いん)(ねん)があることを明かされています。この大通覆講について、簡単におさらいすると、大通とは、三千塵点劫の昔に出現して法華経を説いた(だい)(つう)()(しょう)(ぶつ)を言い、覆講とは、大通智勝仏が説いた法華経を再び十六王子が講説し、大衆に結縁したことを言います。
 その十六番目の王子が釈尊であり、この時の釈尊の説法を(ちょう)(もん)して、後に退(たい)(てん)してしまった人々は、三千塵点劫もの間、(さん)(がい)(ろく)(どう)という苦しみの世界に(ちん)(りん)します。釈尊は、この間、(すい)(じゃく)の仏として長い時間をかけて、種々の(ほう)便(べん)を用いて、人々の()(こん)調(じょう)(じゅく)し、再び法華経を説いて、(いち)(ぶつ)(じょう)へと導いたのです。
 そして、開三顕一の法門が領解できなかった()(こん)の声聞衆に対して、「()(じょう)(ほう)(しょ)(たと)え」をもって、(さん)(じょう)(ほう)便(べん)(いち)(じょう)(しん)(じつ)の法門が説かれます。今回はその「化城宝処の譬え」について、学んでまいります。
 
 ()(じょう)(ほう)(しょ)(たと)
 非常に(めずら)しい宝が無量にある場所がありました。そこは五百()(じゅん)(約一万キロ)も(はな)れた場所で、()(ちゅう)、山や谷、()(ばく)など、(けわ)しい道を通らなければ辿(たど)り着けません。人々のうち、ただ一人の者は、この道をよく知り、しかもたいへん()()が勝れていたので、(かれ)をリーダーとし、宝の場所をめざして出発しました。
 ところが、道があまりに険しいため、人々は途中で(つか)れ果()て、「宝物などもうよい、引き返そう」と言う者も出てきました。そこで、リーダーは「せっかくここまで来たのに帰ろうとするなんて、何てかわいそうな人たちなんだ。ひとつ手段(方便)を(こう)じて、人々を(はげ)まそう」と考え、五分の三ほど過ぎたところで、(じん)(づう)(りき)によって、立派な仮の城、つまり化城を設けたのです。そして「もう恐(おそ)れることも、引き返す必要もありません。この城に入れば、心が(あん)(のん)となり、元気も回復するでしょう」と告げました。人々は喜んで城に入り、一息ついて安らかになりましたが、さらに「自分はここでよい、もう何も望むことはない」と安住してしまいました。この様子を見たリーダーは、化城を()き消し、人々に「皆さん、この城は皆さんに(いっ)(たん)休んでもらうために、私が仮に造ったものです。元気を取り(もど)した今、化城は必要ありません。真の宝処は、もうこの先です。さあ、さらなる元気を出して出発しましょう」と告げました。そして、一同は再び出発し、ついに宝処に辿り着いたのです。
 以上の化城宝処の譬えの後、釈尊は「仏も、(しゅ)(じょう)の心が弱いことを知っている。このため、初めから法華経を説くことをせず、まず仏道へ導く手段・方便として、声聞・(えん)(がく)()(さつ)の三乗の教えを説いたのである。それは、化城と同じであり、本当の目的ではない。真実の目的とは、一仏乗であり、それは法華経によって成就されるのである」と説かれました。
 以上が、化城宝処の譬えについての内容です。
 
 (しゅ)(じゅく)(だつ)の法門について
 法華経には、(しゅ)(じゅく)(だつ)が説かれます。種とは、仏様が成仏のもととなる(みょう)(ほう)を、人々の心に植え付けることです。熟とは、その(たね)から芽を出させ、肥料をやって順々に育てていくこと、そして脱とは、育て上がった木が、最終的に実を結び、それを収(しゅう)(かく)することで、これを成仏に譬えるのです。したがって、種熟脱とは()(どう)()(じゅう)といって、仏様が衆生を仏の(きょう)(がい)に導くすべての課程を(くく)ったもので、仏と人々との関係から仏道成就の因縁を明かしたものなのです。この『化城喩品』では、釈尊と釈尊在世の衆生との仏道の因縁が示されました。つまり、釈尊在世の衆生は、三千塵点劫もの昔に、第十六王子・釈尊の法華覆講によって妙法の種を植えられ、以来生まれるごとに釈尊のもとで仏道修行をし、ようやく法華経を聞くだけの機根に仕立て上げられた。そして、今、ここに法華経の(さと)りに()ることができる、と明かされたのです。
 ここで大切なことは、迹門の『化城喩品』では釈尊自身の(ほん)()(しん)を示されていないので、あくまでも衆生の機根を中心とした種熟脱の(さん)(やく)であり、真の種熟脱は釈尊の本地を示された本門に存することを知らなければなりません。
 (だい)(しょう)(にん)(さま)は『(かい)(もく)(しょう)』に、
「迹門方便品は(いち)(ねん)(さん)(ぜん)()(じょう)()(ぶつ)を説いて()(ぜん)二種の(とが)一つを(のが)れたり。しかりといえどもいまだ(ほっ)(しゃく)(けん)(ぽん)せざれば、ま()との一念三千もあらわれず、二乗作仏も定まらず。水中の月を見るがごとし。根なし草の波の上に浮かべるに()たり」(御書 五三六n)
(おお)せられているように、本門の成道が明かされなければ、迹門で説くところの教説は()(みょう)()(じつ)となるのです。
 では本門の種熟脱とは、『(かん)(じんの)(ほん)(ぞん)(しょう)』に、
()(しゅ)を以て下種と()し、大通・前四味・迹門を(じゅく)と為して、本門に至って(とう)(みょう)に登らしむ」(同 六五六n)
と、『寿(じゅ)(りょう)(ほん)』において()(おん)五百塵点劫の下種を明かし、三千塵点劫(およ)び四十余年の()(ぜん)(きょう)と法華迹門を(じゅく)(やく)とし、『寿量品』に()って(とく)(だつ)したことを(だっ)(ちゃく)というのです。
 したがって、久遠の過去に下種を受けた(ほん)()()(ぜん)の衆生は、法華経本門の種熟脱の化導を経て真の成仏を()げるのです。
 (まっ)(ぽう)の衆生は、未だ下種を受けず、(ぜん)(こん)を積んでいない(ほん)()()(ぜん)の衆生であり、釈尊の熟益・脱益の法では救われません。
 故に末法は、()(おん)(がん)(じょ)(どう)(よう)、久遠の本仏によって、新たに衆生の(しん)(でん)(ぶっ)(しゅ)を下されるべき時です。
 『観心本尊抄』に、
「在世の本門と末法の初めは一同に純円なり。(ただ)し彼は脱、(これ)は種なり。彼は(いっ)(ぽん)()(はん)、此は(ただ)題目の五字なり」(同)
と仰せのように、末法下種の本法とは、()(ほん)(ぶつ)(にち)(れん)(だい)(しょう)(にん)の御当体である南無妙法蓮華経の(だい)(まん)()()本尊であり、末法の衆生はこの御本尊を信受し、題目を(とな)えるところ、(そく)(しん)(じょう)(ぶつ)の境界を()ることができるのです。これが末法における真の種熟脱の三益なのです。
 
 ()(じょう)(そく)(ほう)(しょ)
 大聖人様は『(おん)()()(でん)』に、
「化城の化とは(しき)(ほう)、城とは(しん)(ぽう)を表わしており、爾前権教においては、この色心の二法を()(じょう)と説き、法華経においては、(じょう)(じゅう)と説きます。そして、化城とは()(かい)、宝処とは(ぶっ)(かい)と説かれ、末法においては、御本尊を受持し、南無妙法蓮華経と唱えていくところ、私たち(ぼん)()の色心が(ほん)()(じょう)(じゅう)の妙法の当体と開かれ、即身成仏することを()(じょう)(そく)(ほう)(しょ)というのである((しゅ)())」(同 一七四五n)
とされています。
 私たちは、五百由旬の(けん)(なん)(あく)(どう)を経なくとも、(ただ)ちに宝処に至ることができる大聖人様の南無妙法蓮華経を受持信行させていただける喜びを再認識し、さらには多くの人びとを宝処に導いたリーダーのように、()(ぎょう)()()の信心に住し、御命題達成をめざしてさらなる(しょう)(じん)をしてまいりましょう。
 
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