今回からは、日(にち)蓮(れん)大(だい)聖(しょう)人(にん)様に帰(き)依(え)をした信徒の中でも、最古参の一人である富(と)木(き)常(じょう)忍(にん)について、学んでまいりましょう。

　富木氏は、もとは因幡国法美郡(いなばのくにほうみのこおり)富城庄(しょう)（現在の鳥取県）に住んでいた国府(こう)役人の家柄(いえがら)でしたが、富木常忍の父の代に下総(しもうさ)に移住しました。富木常忍は、下総国葛飾(かつしか)郡八幡(やわた)庄若宮(わかみや)（現在の千葉県市川市）の領主であったと伝えられています。

　一説に富木常忍は、大聖人様が修行中に書写された書籍(しょせき)を所持していたことから、諸国を遊学し修行に励(はげ)まれていた大聖人様に援助(えんじょ)をしていたとも言われています。確実な文書としては、建(けん)長(ちょう)五（一二五三）年十二月九日付の『富木殿御返事』によって、このころにはすでに入信していたことが判ります。

　同御書には、

「ひる(昼)はみぐるしう候へば、よる(夜)まいり候はんと存じ候」（御書　二五�n）

とあり、このころ大聖人様の御住(おす)まいから行き来のできる所に、富木常忍は居(きょ)を構(かま)えていたと考えられます。

　富木常忍は、下総の守(しゅ)護(ご)千(ち)葉(ば)氏に仕えており、『富(ふ)士(じ)一(いっ)跡(せき)門(もん)徒(と)存(ぞん)知(ちの)事(こと)』に、

「一、観心本尊抄一巻。

一、取要抄一巻。

一、四信五品抄一巻。法門不審の条々申すに付いての御返事なり、仍って彼の進状を奥に之を書く。

　已上三巻は因幡国富(と)城(きの)荘(しょう)の本主今は常忍、下(しも)総(うさの)国(くに)五郎入道日常に賜ふ、正本は彼の在所に在るか」（同　一八七一�n）

とあるように、後に重要な御書を大聖人様より賜(たまわ)っています。なぜ重要な御書を大聖人様より賜ったのかと言えば、門下の有力な信徒であったことのほかに、富木常忍が比(ひ)較(かく)的(てき)安(あん)泰(たい)な社会的地位にあったために、聖(しょう)教(ぎょう)の厳(げん)護(ご)を見(み)込(こ)まれ、託(たく)されていたと考えられます。

　また富木常忍は、最初の妻(つま)を喪(うしな)った後、妙(みょう)常(じょう)を妻に迎(むか)えましたが、その連れ子は後に大聖人様の弟子・伊(い)予(よ)房(ぼう)日(にっ)頂(ちょう)（後の六(ろく)老(ろう)僧(そう)の一人）となり、またもう一人は後に日(にっ)興(こう)上(しょう)人(にん)を師(し)匠(しょう)とした寂(じゃく)仙(せん)房(ぼう)日(にっ)澄(ちょう)師です。

　

　外護(げご)の大任(たいにん)

　富木常忍は、大聖人様の御化導(ごけどう)の草創期に当たるころより、外護の大任を果たし、またに門下の信徒の有力者として活躍(かつやく)しました。

　松葉ケ谷(まつばがやつ)の法難(ほうなん)によって、草庵(そうあん)を襲撃(しゅうげき)された大聖人様は、一時、下総若宮の富木邸(てい)に滞在(たいざい)され、百日百座の説法を行ったと伝えられています。この百日百座の説法は、それを裏付ける文書がないので真相は判りませんが、実際に、文永(ぶんえい)三（一二六六）年から四年にかけて、大聖人様が上総(かずさ)・下総の弘(ぐ)教(きょう)をされた折には、自身の邸に大聖人様をお迎えしたようです。

　文永八年の竜(たつ)の口(くち)法難では、相模(さがみ)の依智(えち)に入られた大聖人様に書をもってお見舞(みま)い申し上げると同時に、佐渡(さど)へのお供として数名の入道たちを従者として遣(つか)わしました。この従者たちは、富木常忍への迷惑がかかるとの大聖人様の御配慮(ごはいりょ)により、渡航前(とこうまえ)に越後(えちご)の寺泊(てらどまり)より還(かえ)されています。

　弘安(こうあん)二（一二七九）年に熱原法難(あつわらほうなん)が惹(じゃっ)起(き)すると、大聖人様の依(い)頼(らい)により越(えち)後(ご)房(ぼう)日(にち)弁(べん)師と下(しも)野(つけ)房(ぼう)日(にっ)秀(しゅう)師を自邸に迎え、滞在させています。

　このように、富木常忍は、大聖人様にとって、いざという時に頼れる心強い信徒であったのです。

　

　富木常忍の御(ご)供(く)養(よう)

　富木常忍に宛(あ)てられた御書は、四十余(よ)編(へん)あります。この中には、先に挙げた『観心本尊抄』などの重要な御(ご)著(ちょ)述(じゅつ)もあり、また御書状であっても著作に準(じゅん)じるものや御消息などがあります。

　これらの富木賜(し)書(しょ)から、富木常忍が大聖人様に奉(たてまつ)った御供養(ごくよう)の品々を列挙すれば、

白米（富木殿御返事）

青(せい)鳧(ふ)・鵞(が)目(もく)（四(し)信(しん)五(ご)品(ほん)抄(しょう)など）

筆（観心本尊抄送(おくり)状(じょう)など）

墨(すみ)（観心本尊抄送状など）

帷(かたびら)（観心本尊抄送状）

白(しろ)小(こ)袖(そで)（四(し)菩(ぼ)薩(さつ)造(ぞう)立(りゅう)抄(しょう)）

薄(うす)墨(ずみ)衣(ころも)と袈裟(けさ)（四菩薩造立抄）

などがあります。この御供養のうち、青鳧・鵞目とは当時の貨幣(かへい)のことです。

　特筆すべきは、大聖人様が御著作や御消息を御書きになる際に必要になる筆や墨の御供養があることです。大聖人様の御(お)認(したた)めになられた御(ご)本(ほん)尊(ぞん)様(さま)、そして数々の重要な御著述、またご信徒ヘ与(あた)えられた多くの御書状に、富木常忍の御供養された筆や墨が用いられたことでしょう。

　身(み)延(のぶ)入山の様子が窺(うかが)われる『富木殿御書』の追伸(ついしん)には、

「けかち(飢渇)申すばかりなし。米一合もう(売)らず。がし(餓死)しぬべし。此の御房たちもみなかへ(帰)して但(ただ)一人候べし」（同　七三〇�n）

とあることから、富木常忍は、身延に向かわれる大聖人様に鵞目の御供養をされ、さらに従者のお供を手配したと推測されます。

　また大聖人様が佐渡へ向かわれる際にも鵞目の御供養をされています。こうした金(きん)子(す)の御供養は、いつ何(なん)時(どき)、いかなる物資が必要になるか判らないとの富木常忍の配慮があったものと考えられます。

　このように富木常忍の御供養は、大聖人様の御化導を補佐(ほさ)し奉るのみならず、大聖人様とその門弟の生活をも支える尊い御供養であったのです。

　

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　今回は、富木常忍による外護と御供養について述べました。

　日蓮正宗の歴史を拝(はい)しますと、御僧侶(ごそうりょ)を自宅に招(まね)いて法座を開いて弘教を進めたり、昨今の災害に際し、寺院の御本尊様と御住職を避難(ひなん)するのに自宅を提供するなど、折伏(しゃくぶく)弘教と護法のために尽力(じんりょく)した法華講の人々がいます。

　私たちは、こうした先達・先輩(せんぱい)が示してくれた弘教と護法の姿を鑑(かがみ)として、御住職と共に折伏に邁進(まいしん)していかねばなりません。

　また御僧侶と私たち信徒の浄財(じょうざい)により、総本山の堂宇や地域の各寺院の建(こん)立(りゅう)と荘(しょう)厳(ごん)がなされてきました。富木常忍による筆と墨などの御供養が、陰(いん)に陽(よう)に大聖人様の御化導を支えられたように、私たちの御供養が広(こう)宣(せん)流(る)布(ふ)の使命を果たすために様々な形に活用されていくのです。

　本年は待望の御(み)影(えい)堂(どう)の落(らっ)慶(けい)大(だい)法(ほう)要(よう)が奉修されます。私たちは、御(ご)法(ほっ)主(す)日(にち)如(にょ)上(しょう)人(にん)猊(げい)下(か)の、

「毎年度の折伏誓(せい)願(がん)の達成も、広宣流布の大願も、要(よう)は我等僧俗一同が志(こころざし)を同じくして団結し前進していくことが肝(かん)要(よう)であり、これが勝利の秘(ひ)訣(けつ)であります」（大日蓮　八〇三号）

との御指南をしっかりと拝し、御住職のもとに一致団結して、折伏を早期に達成し、晴れて御影堂の大法要を迎えられるよう、精(しょう)進(じん)していくことが大切です。