大白法 平成25年2月1日刊(第854号)より転載

 
 ()(ざい)()(しん)()(まな)
  

池上兄弟 3

 (こう)(あん)元(一二七八)年九月九日の『(ひょう)()(さかん)殿(どの)()(しょ)』に、
殿(との)の御心(かしこ)くして日蓮がいさめを御もちゐ有りしゆへに、二つの()の車をたすけ二つの足の人をにな()へるが(ごと)く、二つの羽のとぶが如く、日月の一切衆生を助くるが如く、兄弟の御力にて親父を()()(きょう)に入れまいらせさせ(たま)ひぬる御計らひ、(ひとえ)に貴辺の御身にあり」(御書 一二七〇n)
とありますように、兄(むね)(なか)の二度の(かん)(どう)を乗り越え、ついには父(やす)(みつ)を大聖人様に()()せしめるに至った池上兄弟の信心姿勢について、これまで学んできました。
 
 父の(せい)(きょ)
 宗仲・(むね)(なが)の兄弟は、父康光入信後も()(のぶ)の大聖人様の元に種々の御供養をお送りし、一家の諸問題について御教示を(あお)がれるなど、より一層(じゅん)(すい)(しん)(こう)(はげ)まれました。その様子は、兄弟とその夫人たちに与えられた御手紙から(うかが)い知ることができます。同年十一月二十九日の『兵衛志殿御返事』には、
「なによりも()()()(たい)()(さかん)との(殿)との御事、ちゝ()の御中と申し、上のをぼへと申し、面にあらずば申しつくしがたし」(同 一二九五n)
とあることからも、主君からの信頼も厚く一家和楽の信仰生活を営まれていたことが判ります。
 翌弘安二年の二月に(せい)(きょ)された父康光は、大聖人様の御教導のもと、真の孝養とは何かを覚知した兄弟たちの折伏によって、大聖人様の弟子檀那として安らかに(りん)(じゅう)(むか)えるに至りました。
 康光の逝去の報を受けた大聖人様は、諸難を退け父を成仏へと導かれたことを(しょう)(さん)されると共に、これからも兄弟力を合わせて事に当たるよう書状を(したた)められています。
 
 (はち)(まん)(ぐう)(ぞう)(えい)(のこと)
 弘安四年の春、(つるが)(おか)(はち)(まん)(ぐう)の造営に当たり、父から(さく)()()(ぎょう)の役目を受け()いでいた池上兄弟が(ざん)(そう)によって工事の任を外されることとなりました。
 鶴岡八幡宮は前年の十一月、(ほう)殿(でん)で火災が起こり、かねてこのような事態を想定されていた大聖人様は『(はち)(まん)(ぐう)(ぞう)(えい)(のこと)』を送られ、兄弟二人に対して次のように教導・(くん)(かい)されました。
 そもそも父康光から役目を引き継ぎ主君から恩を(こうむ)った身であるから、たとえ一事の行き違いがあったとしても悪く思ってはならない。本来、仰せつけられても辞退するのが(けん)(じん)であり、むしろ讒奏によって任より外れたことを(よろこ)びこそすれ、造営に(たずさ)わろうとするならばそれは(とが)となると、(いまし)められます。
 さらには日本国の上下万民が(ほう)(ぼう)の人となっている状況では、八幡大()(さつ)(あが)めたとしても国難を救う力が(およ)ぶことはないと(かっ)()され、大聖人の弟子である池上兄弟が八幡宮造営に携わったために、八幡大菩薩の加護なく他国から日本国が攻められたのだと世間の人に中傷されることを考えれば、造営の任を外れたのも諸天善神の御計らいであろうと御教示されています。
 また、御手紙の末文では日頃の身なりや態度に至るまで細やかな御指導をされており、御手紙を認められたのと相前後して、(もう)()(ぐん)()()()(しま)(しん)(こう)するなど(きん)(ぱく)した世相を(かんが)みられた大聖人様の池上兄弟に対する深い()()()(はい)されます。
 
 池上(てい)(たい)(ざい)
 さて、『八幡宮造営事』の文中にも、
()の法門申し(そうろう)事すでに廿(にじゅう)()年なり。日々の論義、月々の難、両度の流罪に身つかれ、心いたみ候ひし故にや、此の七八年が間年々に(すい)(びょう)をこり候ひつれども、なの()めにて候ひつるが、今年は正月より()()(ぶん)(しゅっ)(たい)して、(すで)に一期をわりになりぬべし。其の上(よわい)既に六十にみちぬ。たとひ十に一つ今年はすぎ候とも、一二をばいかでかすぎ候べき」(同 一五五六n)
と大聖人様自ら御身の不調を記されていましたが、長年にわたる()(しん)()(ほう)()()()いにより次第に体の衰弱が進み、弘安五年九月、弟子方の熱心な(すす)めもあって常陸(ひたち)(現在の茨城県)へ湯治(とうじ)(おもむ)かれることとなりました。
 これに先立ち、(にっ)(こう)上人に(ほん)(もん)(かい)(だん)(だい)()(ほん)(ぞん)()(ぞく)し『(にち)(れん)(いち)()()(ほう)()(ぞく)(しょ)』をもって(めつ)()の弘通を(たく)された大聖人様は、九月八日、九ヵ年にわたって一度も出山することのなかった身延の沢を弟子たちと共に出発されました。
 その途中、(むさ)(しの)(くに)の池上宗仲の館に立ち寄られたのは九月十八日のことであり、以前より御手紙で病状を知り大聖人様の快復を(いの)っていたであろう池上兄弟たちも、その来訪をどれほど喜ばれたことでしょう。
 大聖人様が宗仲の館に(とう)(りゅう)されていると聞いた(きん)(りん)(だん)(のつ)等は、大聖人様にお会いしぜひ共御教導いただきたいと参集しました。大聖人様も病の身を(いと)わず、万代への(ゆい)(かい)の意をこめて『立正安国論』の講義をされたのです。
 
 大聖人様の()(にゅう)(めつ)
 十月八日に本弟子六人を定め、十月十三日、『身延山付嘱書』をもって日興上人に身延山()(おん)()(べっ)(とう)(しょく)を付嘱された大聖人様は、同日(たつ)(こく)(午前八時頃)、弟子・檀那が唱題をされる中、(あん)(じょう)として()(にゅう)(めつ)あそばされ、()(めつ)(げん)(めつ)の相を示されました。
 翌十四日、日興上人の()()のもと(そう)()()(ぎょう)され、池上兄弟も兄宗仲は(はた)を、弟宗長は()()(ほう)()して葬送に(つら)なっています。
 大聖人様が池上の地で入滅されたことについて、総本山第二十六世(にち)(かん)上人様は『(れん)()()(りゅう)の八相』の「第八 (にゅう)()(はん)相」に、
()(しゃく)(そん)は、(りょう)(じゅ)(せん)(おい)て、妙法を(えん)(ぜつ)し、霊山の(うしとら)(あた)(ばつ)(だい)()の辺り(しゃ)()(りん)にして、入滅したまへり。聖人は身延山に於て、妙法を(こう)(じゅ)し、延山の艮に当る田波河の辺り池上(むら)にして、(じゃく)に帰す。古今道同じく、(まさ)所以(ゆえん)有るべし」
と示されています。インド応誕の釈尊は、法華経を説いた霊鷲山の艮の方角(北東)に当たる河の辺で入滅されましたが、大聖人様が入滅の地とされた池上もまた身延山の艮の方角に当たる()()(がわ)の辺であり、仏法の不思議の因縁が観ぜられます。
 大聖人様入滅後の兄弟たちの消息は(つまび)らかではありませんが、一説によると兄宗仲は(えい)(にん)元(一二九三)年、弟宗長は兄より早く弘安六(一二八三)年に逝去されたと伝えられています。
 私たちも困難に立ち向かう兄弟が常に大聖人様の御指南を仰いで信心に励んだ姿に(なら)い、御法主上人猊下の御指南を根本に自身の信行を見つめ直すことが大切です。
 御法主日如上人猊下は本年元旦勤行の砌に、
(しん)(きょう)(ほう)(じゅう)・死身弘法の()(せい)(くん)(しん)(かん)に染め、異体同心・(いっ)()(だん)(けつ)して励まし合い、(こう)()のために()くしていくところに、必ず大御本尊様の()(しょう)(らん)を仰ぐことができる」(大白法 八五三号)
と御指南あそばされています。「団結前進の年」と銘打たれた本年、父康光を入信に導いた池上兄弟と夫人たちの異体同心の姿勢こそが、私たちが手本とすべき団結前進の姿であると(とら)え、平成二十七年の御命題成就に向けて年頭からの大前進をお誓いしてまいりましょう。
 
池上兄弟(1)
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