大白法 平成23年8月1日刊(第818号)より転載

 
 (いく)(せい)についてH
  

真心からの御供養 1

御供養の原点(雪山(せっせん)童子・薬王菩薩の()(ほう)
 
 一、雪山童子
 仏法を求める姿として、私たちがよく教わるお話に雪山童子の故事があります。()(はん)(ぎょう)の『(しょう)(ぎょう)(ほん)』に説かれています。
 雪山童子は、(しゃく)(そん)が過去世において仏になるための修行をしていたときの名前です。
 雪山童子は正しい教えを聞きたいと常に願っていたところ、ある時、「(しょ)(ぎょう)()(じょう) ()(しょう)(めっ)(ぽう)」という、仏法の教えの半分だけを説いた言葉が聞こえてきました。
 その経文を耳にした雪山童子は(かん)()のあまり、この尊い教えをだれが説いたのかと、無我夢中であちらこちらを走り回ったのですが、そこには恐ろしげな鬼神だけがいました。
 雪山童子は、その()(どう)(しん)の強さから、鬼神への恐れなど()(じん)もなく、鬼神に(たず)ねました。すると、()を説いたのはまさしく鬼神だったのです。
 雪山童子は、その残りの教えを説いて欲しいと願ったところ、鬼神は、おなかが減って残りの教えを説くことができないと言います。鬼神が法を説くためには「生きた人間の血と肉を食べなければならない」ということなので、雪山童子は自分の身を(あた)えることを約束し、残りの教えである「(しょう)(めつ)(めっ)() (じゃく)(めつ)()(らく)」という八字を教えてもらったのです。
 仏法の真理を得た喜びに満足した雪山童子は、「このままいたずらに死ぬ身を、法のために捨てることができれば(ほん)(もう)です。約束通りあなたにこの身を差し上げましょう。しかし、私がこのまま死んでは、多くの人に尊い教えを伝えることができません」と、あたりの石や(かべ)、樹木に言葉を書き付けました。そして、何の未練もなく、鬼神に向かって高い木から身を投げました。
 すると、実は(たい)(しゃく)(てん)であった鬼神は実の姿となって、雪山童子を受けとめ、雪山童子が未来に必ず仏になることを告げたという話です。
 
 二、薬王菩薩
 法華経の『薬王菩薩(ほん)()(ほん)第二十三』には、仏様に身を供養された薬王菩薩のお話が説かれています。
 薬王菩薩は、はるか遠い過去世、一切衆生喜見菩薩として修行に励んでいました。そして法華経を説かれた(にち)(がつ)(じょう)(みょう)(とく)(ぶつ)の大きな御恩を報じるために、あらゆる宝物を御供養し尽くしました。
 しかし、それでもまだ足りないと深く思い、我が身に油を()り千二百年もの間、身を焼き、仏様に(ともし)()(ささ)げることで仏恩に報いたのです。
 そうして身をもって灯火とし、仏様に御供養した後にも、さらに生まれ変わって、(ひじ)を灯火として、実に八万四千年もの長きに(わた)って仏様に御供養しました。
 
     ◇   ◇   ◇   ◇
 
 大聖人様は御書の様々な箇所にこれらの説話を引用されています。
 『白米一俵御書』には、
「たゞ一つきて候衣を法華経にまいらせ候が、身のかわ()をはぐにて候ぞ。()へたる()に、これはな()しては、()()の命をつぐべき物もなきに、たゞひとつ候()れう()を仏にまいらせ候が、身命を仏にまいらせ候にて候ぞ。これは薬王のひぢ()をやき、雪山童子の身を鬼にたびて候にもあいをと()らぬ功徳にて候へば、聖人の御ためには()()やう()、凡夫のためには()()やう()」(御書 一五四四n)
とお示しになられています。
 成仏するということは、仏様への()(みょう)があって(かな)えられるのです。帰命とは、最も大切な命を仏法に(たてまつ)ることです。それをそのまま(じっ)(せん)したのが雪山童子や薬王菩薩だったのです。
 これらの聖人方は、自らの命を仏様に奉って法を得たのです。これを、大聖人様は「事供養」と仰せになられました。
 しかし、私たち末法の凡夫には、(とう)(てい)、同じことをそのまま実践することはできないでしょう。
 そこで大聖人様は、
「凡夫は志ざしと申す文字を心へて仏になり候なり」(同n)
と仰せなのです。
 すなわち、私たちにとっては、自身の生活や命を養うためになくてはならないものを供養するその(こころざし)こそが、雪山童子の功徳と変わらないものであると御示しになられたのです。これを先はどの「聖人の事供養」に対して、「凡夫の理供養」といいます。
 
 (なん)(じょう)(とき)(みつ)殿(どの)に学ぶ御供養の精神
   −仏にやすやすとなる事とは−
 
 大聖人様は『上野殿御返事』に、
「御心ざしの候へば申し候ぞ。よく()ふかき御房とおぼしめす事なかれ。
 仏にやすやすとなる事の候ぞ、をしへまいらせ候はん。(中略)仏になりやすき事は別のやう候はず。(かん)(ばつ)かわ()けるものに水をあたへ、寒氷にこゞ()へたるものに火をあたふるがごとし。又、二つなき物を人にあたへ、命の()ゆるに人の()にあふがごとし」(同 一五二八n)
と、南条時光殿から送り(とど)けられた()(もく)(いっ)(かん)(もん)の尊い御供養の真心を(たた)えられて、この真心が成仏の(じき)(どう)であることを御教示になられた御文です。
 すなわち、やすやすと仏に成る方法とは、一つ目は、時に応じて必要となるものを御供養することであり、二つ目は、自身の命を保つためのものとして一つしかないものを、喜んで御供養することであると仰せなのです。
 南条時光殿は自身がたいへんな状況にありながらも折々に御供養されました。
 弘安元年七月八日の『時光殿御返事』には、
「今年は(やく)(びょう)と申し、()(かち)と申し、とひくる人々もすくなし。たとひや()ひなくとも飢ゑて死なん事うたがひなかるべきに、麦の御と()らひ金にもすぎ、珠にも()えたり。彼のりだがひえ()は変じて金人となる。此の時光が麦、何ぞ変じて法華経の文字とならざらん。此の法華経の文字は釈迦仏となり給ひ、時光が故親父の左右の御羽となりて(りょう)(ぜん)(じょう)()へとび給へ。かけり給へ。かへりて時光が身をおほ()ひはぐくみ給へ」(同 一二四七n)
と仰せになっています。
 特に今年(弘安元年)は疫病が(まん)(えん)し、()(きん)の状態も過酷となっているため訪ねてくる人も少ない。こうしたことから、たとえ病気になることはなくても、このままでは()えて死ぬに違いないと(かく)()していたところに、時光殿が麦を御供養された。このことは、黄金にも過ぎ(たま)よりも超えるものである。
 そして最後に、貧しい(りょう)()()()という聖者に(ひえ)(めし)を分け与えたとき、利吒が残した一粒の稗が黄金の人と変じて猟師に福徳を(さず)けたことを引かれ、このたびの時光殿が御供養された麦は、法華経の文字となり、その文字が釈迦仏となり、時光殿の亡き父親の左右の(つばさ)となって霊山浄土へと飛んでいくであろう、また、その()(どく)が時光殿に返ってきて時光殿を(はぐく)んでいくのであると仰せられました。
 現在、東日本大震災並びに福島原発の事故の(えい)(きょう)で多くの方々が生活に苦難されています。このような厳しい状況だからこそ、今が大きく境界を開く時であると捉えることが肝要です。
 私たちも南条時光殿が苦しい状況の中、大聖人様に真心からの御供養を申し上げた志を学び、成仏への助縁となる御供養の功徳を確信し、()(えい)(どう)(だい)(かい)(しゅう)・総本山総合整備事業への特別御供養に参加すると共に、折伏の実践に努め、最高の福徳を積んでまいりましょう。
 
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