登山とは、総本山大石寺に参詣(さんけい)し、御(ご)法(ほっ)主(す)上(しょう)人(にん)猊(げい)下(か)の大導師のもと、本(ほん)門(もん)戒(かい)壇(だん)の大(だい)御(ご)本(ほん)尊(ぞん)に御目通りして御報恩謝徳申し上げ、私たちの謗(ほう)法(ぼう)罪(ざい)障(しょう)消(しょう)滅(めつ)と即(そく)身(しん)成(じょう)仏(ぶつ)を期すると共に、種々の願業成就を御(ご)祈(き)念(ねん)することです。

　本門戒壇の大御本尊は、末法の御本仏である日蓮大聖人の御(ご)魂(こん)魄(ぱく)・御当体にましますのですから、登山は、私たちが直ちに真の霊(りょう)山(ぜん)浄(じょう)土(ど)に詣(もう)でて、生身の御本仏に御目通り申し上げることに当たります。

　総本山第二十六世日寛(にちかん)上人は、

「此の本尊を受持する則(とき)んば祈(いの)りとして叶(かな)わざること無く、福として来たらざること無く、罪として滅せざること無く、理として顕(あら)われざること無し」（御書文段　五三九頁）

と、その甚深(じんじん)の功徳(くどく)を仰(おお)せられています。

　登山の精神は、九十歳(さい)を越(こ)えた阿(あ)仏(ぶつ)房(ぼう)が大聖人をお慕(した)いして身延まで参詣したように、仏様を渇(かつ)仰(ごう)恋(れん)慕(ぼ)する一念にあります。

　

　はるばる大聖人を訪ねた日(にち)妙(みょう)聖(しょう)人(にん)

　文永九（一二七二）年、佐渡(さど)に御配(はい)流(る)になられた大聖人に御目通りしようと、ある女性が幼い娘(むすめ)をつれて鎌倉(かまくら)を出発しました。

「相州鎌倉より北国佐渡国、其(そ)の中間一千余里に及べり。山海はるかにへだて、山は峨々(がが)海は涛々(とうとう)、風雨時にしたがふ事なし。山(さん)賊(ぞく)海(かい)賊(ぞく)充(じゅう)満(まん)せり（中略）現身に三悪道の苦をふ(経)るか」（御書　六〇七頁）

とあるように、佐渡へは一千里もの長い道のり、それも険(けわ)しい山々や荒々(あらあら)しい海を越えなければなりませんでした。また山賊や海賊が出(しゅつ)没(ぼつ)するなど、地(じ)獄(ごく)・餓鬼(がき)・畜(ちく)生(しょう)の三悪道さながらの苦難の道程でもありました。

　大聖人は、はるばる鎌倉より佐渡を訪れたこの女性の求(ぐ)法(ほう)の信心を非常に喜ばれて、

「日本第一の法華経の行者の女人なり」（同）

と讃(たた)えられ、その女性に対して「日(にち)妙(みょう)聖(しょう)人(にん)」と、門下の弟子檀(だん)那(な)としては極めて異例な聖人号を授けられたのです。

　その後、鎌倉に戻(もど)った日妙聖人は、娘と共に御弟子方を陰(いん)に陽(よう)に外護し、また身延に入られた大聖人のもとへ参詣しています。

　このような、いずこであろうとも大聖人のもとに正法を求めて参詣する日妙聖人の尊い姿は、登山が渇仰恋慕という求法の精神によるものであり、かつ不(ふ)自(じ)惜(しゃく)身(しん)命(みょう)の信心修行であることを、今を生きる私たちに数えられています。

　

　　登山は尊い仏道修行

　現代を生きる私たちは、発達した交通機関などにより、昔に比べると、容易に登山することができます。

　しかし、便利な世の中であるからこそ、より一層、登山の精神を深く考え臨(のぞ)むべきでしょう。

　登山は決して物見遊山の観光旅行ではなく仏道修行ですから、次の三点に留意したいものです。

　一点目は、必ず所属寺院を通じて登山を願い出るということです。

　総本山第九世日(にち)有(う)上人は、『化(け)儀(ぎ)抄(しょう)』の中で、総本山に何事を願い出るにも、必ず所属寺院の御住職を通すべきことを御指南され、登山についても、

「末寺の坊主の状なからん者、在家・出家共に本寺に於(お)いて許容なきなり」（日蓮正宗聖典　九八五頁）

と示されています。

　ですから、団体・個人登山に関わらず、必ず所属寺院へ参り、御住職に添(てん)書(しょ)の発行を願い出るようにしましょう。

　二点目は、いざ登山することが決まった後、急に体調を崩(くず)すなど、様々な理由によって登山できなくなるような状況が発生する場合があるということです。

　仏道修行には、必ず修行させまいとする障(しょう)魔(ま)が現れます。大聖人は、

「月々日々につよ(強)り給へ。すこしもたゆ(弛)む心あらば魔たよりをうべし」（御書　一三九七頁）

と仰せられ、日々の信心に油断なきよう、強く励(はげ)まされています。

　魔に誑(たぶら)かされることがないように、いよいよ信心を励まして、しっかり勤行唱題し、健康に留意することはもちろんですが仕事の管理もしっかりと行い、万全を期して登山に臨みましょう。

　また行きや帰りに事故を起こすことのないよう、交通の安全にも留意しましょう。

　三点目に、登山に際して、自分勝手な振(ふ)る舞(ま)いはしないということです。

　総本山には山法山規という不文律がありますから、御僧侶のおっしゃることはきちんと守らねばなりません。

　また総本山には、多くの方が参詣されるのですから、自分勝手な振る舞いや言動によって、他の迷(めい)惑(わく)とならないよう配(はい)慮(りょ)しましう。

　なお、もし登山の最中に急に体調を崩すなど事故があったときは、直ちに係の方や御僧侶に相談してください。

　

　求法の志で御登山を

　総本山第二十六世日寛上人は、

「今に二十四代、金(こん)口(く)の相(そう)承(じょう)と申して一器の水を一器に瀉(うつ)すが如(ごと)く三大秘法を付(ふ)嘱(ぞく)なされて大石寺にのみ止まれり（中略）本門の戒壇の御本尊在(ましま)す上は其の住処は即(すなわ)ち戒壇なり。其の本尊に打ち向かい戒壇の地に住して南無妙法蓮華経と唱ふる則(すなわ)ち本門の題目なり。志有らん人は登山して拝み給へ」

と仰せられています。

　全国法華講衆たる私たちは、求法の志(こころざし)も新たに、三大秘法の根本道場・総本山大石寺への登山を心がけ、本門戒壇の大御本尊のもとで、広大無辺の功徳を積んでいくと共に、平成二十一年・『立正安国論』正(しょう)義(ぎ)顕(けん)揚(よう)七百五十年の大(だい)佳(か)節(せつ)に向かって、地(じ)涌(ゆ)倍(ばい)増(ぞう)の折(しゃく)伏(ぶく)弘(ぐ)教(きょう)に邁(まい)進(しん)することをお誓(ちか)いしようではありませんか。