大白法 平成19年9月1日刊(第724号より転載)

 
 登山参詣の精神@

 (かつ)(ごう)(れん)()の信心

 『上野殿御返事』に、
かつ()へて食をねがひ、(かつ)して水をしたうがごとく、恋ひて人を見たきがごとく、病にくすりをたのむがごとく、みめ()かたち()よき人、べに()しろいものをつくるがごとく、法華経には信心をいたさせ給へ」(御書一三六一頁)
と、私たちの持つべき信心の()り方を示されています。それはたとえて言うならば、()えた時に食べ物を求め、のどが(かわ)いた時に水を欲しがるように、また恋しい人を見たいように、病気になって薬を頼りにするように、美しい人が紅や(おし)(ろい)をつけるのと同じように、妙法に対する信仰(しんこう)心を持つことです。このような(じゅん)(すい)な信仰の在り方を(かつ)(ごう)(れん)()の信心というのです。
 大聖人御在世当時の信徒は、大聖人を渇仰恋慕し、御目通りできる喜びを胸に、交通不便な中を歩み、困難を押して登山されました。
 

 ()(ぶつ)(ぼう)()(さい)

 ()(ぶつ)(ぼう)()()在島中の大聖人に接し、その人柄(ひとがら)、尊容、そしてなによりもその教化に深く感銘(かんめい)を受け、二年数ヵ月に渡って(つま)千日(あま)と共に真心から御給仕申し上げました。
 文永十一年、大聖人が佐渡配流を赦免(しゃめん)になり身延(みのぶ)に入られると、直ちに大聖人のもとへ参詣(さんけい)されました。
 当時、佐渡から身延までは高齢(こうれい)の阿仏房の足で二十日以上もかかりました。その道程は、日本海の荒波を越えて険しい山道を歩き、山賊(さんぞく)などに(おそ)われる危険を回避(かいひ)しながらなど、たいへんなものでした。しかし、阿仏房たちは大聖人への渇仰恋慕の思い止みがたく、道中の苦難を(かえり)みず参詣を果たしたのです。
 阿仏房と国府(こう)入道が身延に到着したとき、その喜びを大聖人は千日尼と国府尼に()てた御手紙に、
ゆめ()か、まぼろ()しか、尼()ぜん()の御すがた(姿)をば()まいらせ候はねども、心をばこれにとこそをぼへ候へ」(同 七四〇頁)
と、その喜びを表されています。
 阿仏房の感激もまた一入(ひとしお)であったと推察されます。
 

 真心からの大聖人への御給仕

 『是日尼御書』に、
「さどの国より此の甲州まで入道の来たりしかば、あら()()()やとをも()ひしに、又今年来て()つみ、水くみ、たきぎ()こり、だん()王の()()(せん)(にん)につかへしがごとくして一月に及びぬる不思議さよ。ふで()をもちてつくしがたし」(同一二二〇頁)
と、阿仏房が、ひと月あまりも大聖人にお仕え申し上げたことが記されています。
 長い道中を経て御目通りが(かな)った阿仏房は、大聖人に少しでも()(ほう)(こう)申し上げたいとの一念から、(たきぎ)を切ったり、菜を()んだり、沢へ下って水を()むなど、真心からの御給仕に(はげ)んだのです。
 これらはまさに、法華経『寿量品』に、
「心に恋慕(れんぼ)(いだ)き、(ほとけ)渇仰(かつごう)して、便(すなわ)ち善根を()ゆべし」(法華経四三四頁)
と説かれるように、()(どう)(しん)からくる信心の行体であり、ここに登山の基本精神があるのです。
 

 毎年(たび)(たび)の御参詣

 阿仏房が三回目に身延へ参詣した時は九十歳の老齢に達していました。
 大聖人は、『千日尼御前御返事』に、
()ぬる文永十一年より今年弘安元年まではすでに五箇年が間()の山中に(そうろう)に、佐渡国より三度まで夫をつかわす。いくらほどの御心ざしぞ。大地よりもあつく大海よりもふかき御心ざしぞかし」(御書一二五三頁)
と説かれ、高齢の阿仏房を五ヵ年の間に三度までも身延に送り出した千日尼の深い信心を「大地よりもあつく大海よりもふかき御心ざし」と御ほめあそばされています。
 弘安二年三月、阿仏房は九十一歳で逝去(せいきょ)しましたが、その遺骨は子息・(とう)()(ろう)(もり)(つな)の手によって身延に運ばれ、阿仏房は最後の身延参詣を果たしたのです。
 大聖人の弟子として、何としてもお側でお仕えしたいとの一途(いちず)な気持ちから、老齢を顧みず、度々(たびたび)極寒の佐渡より登山した阿仏房、また、危険な旅を承知で夫を送り出し、留守を守った老妻と、その求道心にあふれる信心修行の姿は、たとえ時代は変わっても信仰者の手本です。
 大聖人は『四条金吾殿御返事』に、
「毎年度々(たびたび)の御参詣には、無始の罪障も定めて今生(いっ)()に消滅すべきか。(いよいよ)はげむべし、はげむべし」(同一五〇二頁)
と仰せです。現在の私たちの登山の精神も、まさにここにあるのです。
 このように登山参詣の原点は、大聖人をお(した)い申し上げる渇仰恋慕の心と、大聖人・戒壇(かいだん)の大御本尊への()(ほう)(おん)(しゃ)(とく)にあります。
 そして「毎年度々の御参詣」と、大聖人の御言葉があるように、(しょう)(がい)一度でも多く登山をさせていただき、大功徳(くどく)に欲した信行と生活を送っていこうではありませんか。
 私たちは、戒壇の大御本尊に名を記された法華講の一人として、年に度々の登山をさせていただき、大御本尊への御報恩と、広布(こうふ)(ちか)い、折伏を実践(じっせん)する信心の境界に住するよう、さらなる精進をしていきましょう。
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