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「毒鼓」とは涅槃経に説かれた譬えで、「どくく」、「どっこ」とも読みます。日蓮大聖人が『唱法華題目抄』に、
「同じくは法華経を強ひて説き聞かせて毒鼓の縁と成すべきか」（御書 二三一頁）
と仰せのように、たとえ相手が聞くことを拒もうとも、折伏によって法華経を強いて説き聞かせて下種結縁させることをいい、逆縁を結ぶこと、とも言われます。
毒鼓の誓え
『涅槃経』に、
「毒薬を以て用ひて太鼓に塗り、大衆の中に於て、之を撃ちて声を発さしむるが如し心に聞かんと欲する無しと雖も、之を聞けば皆死す」（国訳・涅槃部一－二〇四）
と説かれているように、毒鼓とは毒を塗った太鼓のことで、その太鼓を打つことによってその音を聞いた人々は聞く気持ちがなくとも必ず死んでしまうと言われています。
涅槃経では、この毒鼓の譬えのように、相手が聞く耳を持たなくとも、一切衆生の仏性常住を説く涅槃経を強いて説き聞かせて縁を結ばせ、貪瞋癡の煩悩の惑を破して仏性を薫発し開いていく仏の化導が説かれています。
毒鼓の本義は法華経にある
しかし、涅槃経はその前に説かれた法華経の義を重ねて説いた教えであり、本来、仏性常住の実義は法華経にあることを知らなければなりません。
つまり、法華経迹門では十界互具を説いて、一切衆生に仏性が具わることを明かし、本門『寿量品』にいたって能化たる釈尊の久遠実成を説くことで、所化たる衆生の仏性もまた常住であることが明かされました。即ち、法華経本門において、能化所化が常住一体となり、初めて真の成仏が成就したのです。
したがって、天台大師が『法華玄義』九上に、
「法華は折伏にして権門の理を破す（中略）涅槃は摂受にして更に権門を許す」
と述べているように、法華経の折伏に対すれば涅槃経は摂受であり、涅槃経の毒鼓の行もその本義は法華経の一仏乗にあるのです。
不軽菩薩
「毒鼓の縁」、即ち折伏の行相は、法華経本門に示された不軽菩薩の修行にあります。威音王仏の滅後、像法時代、不軽菩薩は、法華経『常不軽菩薩品第二十』に、
「我深く汝等を敬う。敢えて軽慢せず。所以は何ん。汝等皆菩薩の道を行じて、当に作仏することを得べし」（法華経 五〇〇頁）
と唱えながら、行き会う人すべてに向かって礼拝しました。
漢字の文字数から「二十四文字の法華経」と言われるこの言葉は、一切衆生に具わる仏性とその発現、つまり法華経の十界互具・一念三千の経意を要約したものです。したがって、この不軽菩薩による礼拝行は、まさに法華経を法体とする下種結縁の折伏行に当たるのです。礼拝行を行う不軽菩薩は、瞋恚の心を抱いた出家の男女、在家の男女から悪口罵詈され、杖木瓦礫の難を受けました。しかし、それでもなお不軽菩薩は先の言葉を唱えながら、逆縁の下種折伏として繰り返し礼拝を続けたのです。
その結果、不軽菩薩は臨終の際に威音王仏がかつて説いた法華経を聞き、ことごとくこれを受持して六根清浄の功徳を得、さらに寿命を二百万億歳延ばして法華経を説き弘め、後にその功徳によって成仏を遂げました。不軽菩薩は釈尊の過去世の姿だったのです。
一方、不軽菩薩を迫害した上慢の四衆は、後に不軽菩薩の六根清浄を得た尊い姿を見て信伏随従したにもかかわらず、臨終の後、二百億劫もの間、仏法僧を見聞きすることすらできず、しかも初めの千劫には阿鼻地獄において大苦悩を受けたのです。
しかし、その罪が終わると、彼らはまた不軽菩薩のもとに生じ、釈尊の法華経の会座に連なって成仏を遂げることができたのです。それはまさに不軽菩薩による法華経の毒鼓の縁、逆縁成仏の相だったのです。
大聖人の御教示
さて、日蓮大聖人は、末法の衆生は本末有善の機であり、謗法深重の衆生であるとし、『教機時国抄』に、
「謗法の者に向かっては一向に法華経を説くべし。毒鼓の縁と成さんが為なり。例せば不軽菩薩の如し」（御書 二七〇頁）
と、不軽菩薩の修行をもって末法折伏の規範とされました。
しかし、布教の行相は不軽菩薩にならいますが、『教行証御書』に、
「比の時は濁悪たる当世の逆謗の二人に、初めて本門の肝心寿量品の南無妙法蓮華経を以て下種と為す」（同 一一〇四頁）
と仰せのように、弘める法は法華経本門『寿量品』の文底肝心、下種の法体である三大秘法の南無妙法蓮華経なのです。
ま と め
日蓮大聖人は『法華初心成仏抄』に、
「とてもかくても法華経を強ひて説き聞かすべし。信ぜん人は仏になるべし、謗ぜん者は毒鼓の縁となって仏になるべきなり」（同 一三一六頁）
と仰せです。
末法においては、寿量文底下種の南無妙法蓮華経を、たとえ相手が嫌がろうとも真心を込め、誠意をもって説き聞かせることが大切です。即座に信じた順縁の人は今世に成仏するでしょうし、誹謗する人は逆縁として、それが毒鼓の縁となって、これまた遠い未来において日蓮大聖人によって救済されていくのです。法華講の私たちは折伏によってさらに「毒鼓の縁」を拡大していきましょう。
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