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「権実相対」とは、法華経以前の四十二年の経々と法華経とを比較し、勝劣を明らかにすることをいいます。
権大乗について
まず、権大乗教の経典とは、五時教判の中の第一の華厳時、第三の方等時、第四の般若時に説かれた経典をいいます。
華厳時では、法を仮りに説き与え、衆生がその法を受け入れることができるかどうかを試した華厳経が説かれました。
方等時では、様々な権大乗教が説かれ、前の阿含時で説いた小乗の教えに執着している二乗を呵責し、大乗教を慕わせました。
般若時では、一切は皆空であると明かし、仏の教えは大乗の法のみであると教え、大乗・小乗を融合させました。
以上のように、権大乗教は、後に説かれる真実の教えである法華経に導き入れるための方便の教えなのです。
権実の勝劣
次に、これらの権大乗教と実教である法華経を対比して、五つの面からその勝劣を示します。
①四十余年未顕真実
まず、無量義経に、
「諸の衆生の性欲（性質・欲望）不同なることを知れり。性欲不同なれば種種に法を説きき。種種に法を説くこと、方便力を以てす」（法華経 ２３頁）
と、法華経以前の四十余年の経々は、衆生の性分や願いに応じて説かれた法華経に導くための権りの教えであると説き、これに続いて、釈尊は、
「四十余年には未だ真実を顕さず」（同）
と説いて、四十余年の説法には真実を顕していないと宣言しています。
②三説超過
また法華経の『法師品』には、
「我が所説の経典、無量千万億にして、已に説き、今説き、当に説かん。而も其の中に於て、此の法華経、最も為れ難信難解なり」（同 ３２５頁）
と説いて、已に説いてきた四十余年の経々、今説いた無量義経、さらにこれから説こうとしている涅槃経、これら已今当の三説を超越して、法華経が最も深遠で勝れていると明かしています。
③随自意
また、日蓮大聖人は、御書の中で、
「已説の四時の経、今説の無量義経、当説の涅槃経は易信易解なり、随他意の故に。此の法華経は最も為れ難信難解なり、随自意の故に」（御書 １４６８頁）
との文を引かれ、爾前の諸経は、衆生の機根に応じて説かれた「随他意」の教えであり、これに対して法華経は、仏の深い悟りの法をそのまま説いた「随自意」の教えであると示されています。
④三種の教相
天台大師は「三種の教相」という教判を立てられ、実教である法華経が勝れていることを証明されています。
第一に「根性の融不融の相」とは、爾前経では、三乗の機根がまちまちであったために、釈尊はそれぞれに応じた教えを説きましたが、法華経に至って三乗の機根は一仏乗に融合されました。
第二に「化導の始終不始終の相」とは、爾前経では、種熟脱の三益を説きませんが、法華経迹門の『化城喩品』では、三千塵点劫の下種益、その後の中間と爾前の熟益、そして迹門当分の授記による脱益を説き、一往、迹門の立場から化導の始終が明かされました。
第三に「師弟の遠近不遠近の相」とは、師である仏と、弟子である衆生との関係が根源から明かされているか否かによって、勝劣を判ずるものですが、法華経本門『寿量品』において、釈尊の久遠の成道が説かれ、久遠からの仏と弟子の真実の姿が初めて明かされたのです。
⑤爾前二種の失
また、日蓮大聖人は『開目抄』に、
「前四十余年と後八年との相違をかんがへみるに（中略）二乗作仏・久遠実成なるべし」（同 ５２８頁）
と仰せになっています。
法華経以前の諸経には、二乗作仏と久遠実成が明かされていないので、重大な欠陥があるのです。
まず「二乗作仏」とは、爾前権経では声聞・縁覚の二乗は、「根敗」とも「焦種」とも呼ばれ、仏種を失って永久に成仏できない者として扱われてきましたが、法華経迹門において、成仏の記別が授けられ二乗が成仏できることを示されたことをいいます。
日蓮大聖人は『持妙法華問答抄』に、
「『二乗の作仏は一切衆生の成仏を顕はす』と天台は判じ給へり」（同 ２９５頁）
と仰せになっています。十界互具の原理からみるならば、単に二乗界の人の成仏に止まらず、十界の衆生すべてに具わっている二乗の生命の成仏が明かされたことになります。そのことによって、初めてすべての衆生が円満に成仏できる法理が確立したのです。
次に「久遠実成」とは『寿量品』に、
「我実に成仏してより以来、無量無辺百千万億那由他劫なり」（法華経 ４２９頁）
と示され、釈尊は、実は久遠五百塵点劫の昔に成道した仏であると「久遠実成」を明かしました。またこの時、垂迹という仮の仏身を発って、仏の本地を顕したことから「発迹顕本」ともいいます。
この久遠実成は、爾前経はもとより法華経迹門にも説かれなかった、一代仏教の究極の法門なのです。
以上のように、二乗作仏・久遠実成を説く法華経が真実の教えと判定しますが、末法においては法華経『寿量品』の文底下種の南無妙法蓮華経こそが唯一無上の真実の教えなのです。
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