|
「無上宝聚不求自得」は「無上の宝聚、求めざるに自ずから得たり」と読みます。『法華経信解品第四』の偈頌の一節です。
須菩提等の中根の四大声聞は、先の『譬喩品第三』で、上根の舎利弗が成仏の記別を受けたのを目の当たりにし、さらに「三車火宅の譬」の説法を聴聞して、仏の開三顕一の法を信解しました。そして、『信解品』の冒頭、四大声聞は跳び上がって喜び、歓声を上げたのです。このことを、当品後半の偈頌に、
「我等今日 仏の音教を聞いて歓喜踊躍して 未曾有なることを得たり 仏声聞 当に作仏することを得べしと説きたもう 無上の宝聚 求めざるに自ら得たり」（開結 ２６３頁）
と説かれているのです。
この文について、天台は『法華文句』に、
「自ら顧るに心に仏道を希望する無くして、而して今忽ち得記作仏することを聞く、故に不求自得と云ふなり」
と釈しています。二乗は小乗教に執着し、灰身滅智して小乗の解脱を得たと思い込み、進んで崇高な仏の悟りを求めようとしませんでした。このため、爾前経では、二乗は決して成仏できないと嫌われたのです。ところが、この『法華経』では、諸法実相に約して理の一念三千が説かれ、仏の開示悟入の化導によって、永不成仏の二乗も成仏できることが説かれました。このため、四大声聞は歓喜踊躍し、釈尊に感謝の心を込めて「無上宝聚不求自得」と述べたのです。
末法御出現の日蓮大聖人は、この文を付嘱の要法の上から御指南されています。すなわち「無上宝聚」とは、『御義口伝』に、
「今日蓮等の類の心は、無上とは南無妙法蓮華経、無上の中の極無上なり。此の妙法を指して無上宝聚と説き玉ふなり。宝聚とは、三世の諸仏の万行万善諸波羅蜜の宝を聚めたる南無妙法蓮華経なり」（御書 １７３９頁）
と示されるように、三世諸仏の万行万善の功徳・善根を具足した南無妙法蓮華経の御本尊をいいます。そして、「不求自得」とは、
「此の無上宝聚を辛労も無く行功も無く一言に受け取るは信心なり。不求自得とは是なり」（前 同）
と示されるように、ただ信心の一念にあります。無上の宝聚である御本尊の功徳は、ひたすらなる信心の一念により、確かに感得することができることを仰せなのです。
すなわち、『観心本尊抄』に、
「釈尊の因行果徳の二法は妙法蓮華経の五字に具足す。我等此の五字を受持すれば自然に彼の因果の功徳を譲り与へたまふ。四大声聞の領解に云はく『無上宝聚、不求自得』云云」（御書 ６５３頁）
と仰せのように、私たち末法の衆生は、爾前経で説く難行や戒律、六波羅蜜等を修めなくとも、それら一切の修行の意義・功徳を具えた三大秘法の御本尊を受持信行することにより、煩悩充満の我が身そのままを「無上の宝聚」の当体と開くことができるのです。
|