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佐前・佐後
日蓮大聖人は、文永八（一二七一）年九月十二日の竜口の法難の後、同年十月に無実の罪によって佐渡に配流となりました。「佐前佐後」とは、宗祖日蓮大聖人の御化導における、佐渡配流以前（佐前）と、佐渡配流以後（佐後）を意味します。
『三沢抄』の御教示
大聖人は『三沢抄』に、
「法門の事はさどの国へながされ候ひし已前の法門は、たゞ仏の爾前の経とをぼしめせ」（御書 一二〇四㌻）
と仰せです。佐渡配流以前に説いた法門と、それ以後に説いた法門とでは、爾前権教（方便）と法華経（真実）ほどに、格段の相違があるとの意です。また、
「去ぬる文永八年九月十二日の夜、たつの口にて頸をはねられんとせし時よりのち、ふびんなり。我につきたりし者どもに、まことの事をいわざりけるとをもて、さどの国より弟子どもに内々申す法門あり」（同）
とあり、法門に変化をもたらしたきっかけは、文永八年九月十二日深夜の竜口法難であり、それ以後の佐渡にあって、未だ明かしてこなかった真実の内々の法門をお弟子方に説き始めたといわれています。
竜口法難と発迹顕本
重大な分岐点となった竜口法難について、大聖人は『開目抄』に、
「日蓮といゐし者は、去年九月十二日子丑の時に頸はねられぬ。此は魂魄佐土の国にいたりて」（同 五六三㌻）
と仰せられ、この御文について、総本山第二十六世日寛上人は『当流行事抄』に、
「蓮祖大聖佐渡已後に今日凡身の迹を開して久遠元初の本を顕わす、豈発迹顕本の現証に非ずや」（六巻抄 一八二㌻）
と教示されています。すなわち、大聖人は竜口法難において凡夫僧日蓮の迹を払い、久遠元初の自受用身として佐渡に渡ったのであると御示しです。この、凡夫としての迹を払い、御本仏の本地を顕わすことを発迹顕本といいます。
大聖人の御一身における重要な立場の相違により、佐前と佐後の御法門には、大きな相違が拝されます。
佐前の御振る舞い
佐前の大聖人は、もとより釈尊から結要付嘱を受けた御身としての、御自覚があらせられました。このことは「日蓮」との御名が、地涌上行菩薩の御徳を示すものであることや、宗旨建立以来、南無妙法蓮華経の大法を弘通されていることからも明らかです。
法華経『勧持品』の二十行の偈には、末法に法華経を弘通する者は、三類の強敵（俗衆増上慢・道門増上慢・僣聖増上慢）から、悪口を言われ、刀や杖によって危害を加えられ、たびたび処を追われたりするなどの難を受けることが予証されています。
大聖人は、その予証通り法華経の弘通によって、三類の強敵ことごとくに遭い、「大難四カ度、小難数知れず」と言われる難を一身に受けられました。これを法華経の身読（色読）といいます。『開目抄』に、
「今の世を見るに、日蓮より外の諸僧、たれの人か法華経につけて諸人に悪口罵詈せられ、刀杖等を加へらるゝ者ある。（中略）但日蓮一人これをよめり」
（御書 五四一㌻）
とあるように、大聖人の忍難の御振る舞いは、法華経に予証される法華経の行者、末法出現の地涌上行菩薩として、身をもって法華経を読む振る舞いであり、自らの立場を証明するものです。
佐後の御化導
日寛上人は、佐前と佐後の御化導の違いについて、
「此れに二義有り。一には所破、二には所顕なり。所破と言うは佐渡已前には未だ真言を破せざるなり。（中略）所顕と言うは未だ三箇の秘法を顕わさざるなり」
（御書文段 三六七㌻）
と、真言の所破と、三大秘法の所顕という二義があることを御示しです。
まず真言の所破という面では、佐前の大聖人は、念仏宗や禅宗を主に破折されており、真言に対する破折はあまり見られませんでした。
しかし、佐後には、佐渡在島中の『真言見聞』や、身延に入ってからの『撰時抄』・『報恩抄』のように、真言宗の空海や、御自らの出身宗派である天台宗の円仁・円珍に対しても強い破折を加えられています。
『曽谷入道殿御書』に、
「仏法の邪見と申すは真言宗と法華宗との違目なり。禅宗と念仏宗とを責め候ひしは此の事を申し顕はさん料なり」（御書 七四七㌻）
という御教示があります。これは、当時の比叡山天台宗が、三代座主の円仁や五代座主の円珍によって真言密教に傾倒し、伝教大師が立てた法華経の正義が失われており、これこそが仏法の邪見である。これを明らかにする準備として、禅宗と念仏宗の破折を行ったのであると仰せられているのです。
所顕の面では、佐渡以前には、三大秘法のうち、題目のみを説き出だされ、本尊は、主に釈尊像を中心とし、本門の戒壇については名目すら明かされていませんでした。
しかし、大聖人は竜口法難の直後から、三大秘法のうちの本門の本尊である大漫荼羅の御図顕を開始され、佐渡赦免の一カ月前の『法華行者値難事』の追伸には、
「天台・伝教は之を宣べて本門の本尊と四菩薩・戒壇・南無妙法蓮華経の五字と、之を残したまふ」（同 七二〇㌻）
と、初めて三大秘法の名目を示されました。
さらに、身延入山直後、文永十一（一二七四）年の『法華取要抄』には、
「如来滅後二千余年に竜樹・天親・天台・伝教の残したまへる所の秘法何物ぞや。答へて曰く、本門の本尊と戒壇と題目の五字となり。（中略）是くの如く国土乱れて後上行等の聖人出現し、本門の三つの法門之を建立し、一四天・四海一同に妙法蓮華経の広宣流布疑ひ無き者か」（同 七三六㌻）
と、上行菩薩の再誕である大聖人が三大秘法を建立し、一天四海に広宣流布することを示されています。
さらに弘安二（一二七九）年十月十二日には、熱原法難を契機とし、大聖人の出世の本懐として、宗旨の根源である本門戒壇の大御本尊を御図顕あそばされました。
このように、大聖人は、竜口の法難によって久遠元初自受用身としての本地を顕わされ、それ以降、末法万年のために、御本仏内証の法門を説き顕わされているのです。
御化導の順序次第
大聖人は佐前より佐後、さらに佐渡よりも身延に入ってから、より深い御境界を顕わされています。
こうした大聖人一期の御化導における次第を弁えず、佐前の御教示をもとに釈尊像を本尊としたり、天台の法華経と大聖人の法華経が同じであると考えることは、大いなる誤りであり、謗法となることを知らなければなりません。
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