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始皇帝と不老不死の薬
秦の始皇が十六歳の時、博学の儒者達が三皇五帝の跡を尋ね、周公孔子の道を伝えて今の政は古に違うと譏ったのを聞いて、始皇は世に書伝があるからだと怒って三墳五典等を残らず焼き払った上、同じく儒者達を生き埋めにした。
又、四夷八蛮の反逆も弓箭兵杖を帯しているからだと考え、それより以後、宮門警国の武士以外から兵具を取り上げ、焼き捨てた。
又、咸陽という所に宮殿をつくったが、その見事な様は意も言も尽くせない程である。そこでの生活を極めるにつけても、命に限りのあることを歎き、鉄で網を造り、冥途からの使者を禦ごうとして内裏の上にそれを張った。
なおも蓬来山に有るという不死の薬を手に入れ長寿を得たいと思っていた。そこに平原津という所から徐福と文成と名乗る道士が二人来て「自分は不死の薬を求める術を知っています」と奏した。始皇は大いに悦んで官禄を与え、二人の言うことを信用して十五歳に至らない童男童女六千人を集めて船に乗り、漫々たる海上に出た。
やがて蓬来の島に着こうとしたが、不死の薬などあろうはずがない。先の二人は我が誑誕の顕れるのを恐れて「龍神が祟をなして薬を惜しんでいるのでしょう。もし海辺に出て退治をすれば必ず薬を取れます」と申した。さればとて龍神を退治せよと数万艘の大船を浮かべ、四、五百人が同時に大弓を引いて矢を放った。又、大弓を船ごとに構えて龍蛇が海上に現れたならば射殺そうとしていた。
始皇は既に渡し場を渡っていた。道の通りには三百万の兵が舷を叩き、太鼓を打ち、ときの声をつくり、止むことがなかった。
龍神はこれに驚き、伏長五百丈（約一キロメートル）程の鮫に変じて浪の上に浮かんだ。頭は獅子のように、背は龍蛇のように万頃の浪に横たわった。数万艘の大船が四方よりこぎわけ、同時に大弓を放ち数万の矢が鮫の身に立った。海上一面、血の海となった。それはあたかも紅蓮地獄を思わせた。
而して後、始皇帝がその龍神と自戦する夢を見て翌日より重病となり、五体苦痛のうちに五十二歳で崩じたのである。
これは『三国伝』に記されていて、日寛上人は「寿命を延ばす為に色々と画策したが、それも叶わずして命を失うのは、彼の金銀珠玉の財宝も、六国の貢も、玉の瓦を連ねた漢陽宮も全て無益である。これをみても寿命の大切なことを知るべきである」と仰せである。
（歴代法主全書四巻）（高橋粛道）
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